Ogre Battle Saga
Episode Five
The March of Black Queen
古の昔、
力こそがすべてであり
鋼の教えと
闇を司る魔が支配する
ゼテギネアと呼ばれる
時代があった
狂気にかられたのか
賢者ラシュディはかつての友であった
グラン・ゼノビア王を暗殺すると、
北方の軍事大国ハイランドを率いる
女帝エンドラと共に
4つの王国を相手に戦争を始めた。
圧倒的な軍事力を誇るハイランド軍は
わずか1年で大陸全土を制圧し、
神聖ゼテギネア帝国が誕生した。
帝国の支配はまさに
恐怖政治そのものであった。
圧政から逃れようとする者たちや
旧王国派の生き残りには、
容赦なく追っ手が差し向けられた。
密告や裏切りが人心を惑わし、
多くの血が大地に流された…。
帝国暦24年
ここシャロームの辺境では、
ゼノビア王国騎士団の
わずかな生き残りが
最後の戦いを挑もうとしていた…。
老占星術師は天を仰ぐ。
彼が見つめるのは運命の星。
最初は他の星に紛れてしまうほどの小さな光だった。
その星は時折まばゆく輝き、また暗くなりと気まぐれに繰り返した。その度に老占星術師は一喜一憂したものだ。
だが今は違う。
今や運命の星は燦然と輝き、全天に己の存在を知らしめている。
そしてゆっくりと王の星に近づき始めていた。
移ろいゆく運命の星が、老占星術師の仕えるべき王の星を導き始めたのだ。
「神よ……! 感謝します!」
類い希なる占星術師、ウォーレン・ムーンは天に向かって両手を広げた。両目からはとめどなく涙が流れている。
ゼノビアを追われて24年。
その歳月は壮年だったウォーレンを老人に変えていた。
命を絶とうと考えたこともあった。
踏みとどまったのは天に王の星があったから。そして20年前、天に運命の星が出現したから。
ウォーレンは再び運命の星を見つめた。
そして気付く。
星は、王の星を目指しながらもウォーレン自身を指し示す小さな星に近づいている。
「すぐ、側に……」
ウォーレンは右手で『星の宿り』を握りしめた。
これは空が澄み切った夜に山間部の野原に降る星の欠片と言われている。通常の魔術師にとっても貴重な魔法の宝物ではあるが、ウォーレンのような占星術師にとっては星見の力を増大させるまたとない至宝である。
ウォーレンの本来の実力では星の動きを曖昧にしか把握することはできない。それでも類い希な才能であるには変わりないのだが、『星の宿り』を手にしていれば星の動向をはっきりとうかがい知ることができるのだ。
ウォーレンはローブの裾を翻すと部屋を後にした。
先日ダスカニアで出逢った踊り子。
炎のような緋色の髪。碧玉のような緑の瞳。すんなりと伸びた手足、魅惑的な美貌、豊満な肉体。完成された美。彫刻のような無機質なものではなく、生きて動く、健全な躍動感に溢れていた。
しかしウォーレンを引きつけたのは彼女の美貌ではなかった。
言葉には言い表せない不思議な印象だった。
彼女だけがぽっかりと浮いて見えた。そこだけ現実ではないように、まるで彼女の内側から微かな光がこぼれるように。
間違いない。
やはり、彼女が運命の星。星の勇者。
ウォーレンは階下に降りると、詰めていた反乱軍の兵士に声をかけた。
「ゼルテニアのランスロットを呼んで下さい。運命の星が現れたと」